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静岡地方裁判所 昭和23年(行)20号 判決

原告 一ノ瀬貫進

被告 熱海地区農地委員会 静岡県農地委員会

参加人 株式会社電業社電動機製造所

一、主  文

原告の両被告農地委員会に対する請求(請求の趣旨(一))及被告県農地委員会に対する予備的請求(請求の趣旨(三)の(ロ))はいずれも之を棄却する。

原告のその余の請求は之を却下する。

本件参加申立は之を却下する。

訴訟費用は原告と被告等との間に生じた部分は原告の負担とし、参加申出に因り生じた部分は参加人の負担とする。

二、事  実

原告訴訟代理人等は「(一)被告等は被告熱海市農地委員会が昭和二十三年六月四日付で別紙目録記載第一、及び第二、の土地売渡計画に対する原告の異議申立を棄却すると共に該売渡計画を取消した処分の違法を確認す。(二)被告熱海市農地委員会は(イ)別紙目録記載第一、及び第二、の土地に対する昭和二十三年六月四日附同委員会の処分を変更して右土地を原告へ売渡計画を樹立せよ。仮りに(イ)の請求が理由がないとすれば(ロ)別紙目録第一、及び第二、の土地に対する昭和二十三年六月四日付同委員会の処分を変更して右土地を原告へ売渡計画を樹立すべき義務のあることを確認す。(ハ)目録第一、の土地に対する昭和二十三年五月六日付売渡計画の無効を確認す。仮りに(二)の(ハ)の請求が理由のないときは(三)被告静岡県農地委員会は(イ)原告の自作農創設特別措置法第十九条第二項第七条第四項の訴願を審理すべき義務あることを確認す。仮りに右(イ)の請求が理由なしとすれば(ロ)同被告のなした原告の訴願不受理の処分を取消す」との判決を求め、被告訴訟代理人等は「原告の請求はこれを棄却する」との判決を求めた。参加人は参加申立の趣旨として「被告等は(イ)別紙目録記載第一、及び第二、の土地の買収計画及び買収処分の無効を確認す。(ロ)仮りに右請求が理由なしとすれば右買収処分を取消す。(ハ)原告及び被告等は別紙目録第一、及び第二、の土地に対する参加人の所有権を確認す」との判決を求め、原告及び被告等はいずれも「参加人の請求を却下する」旨の判決を求めた。

原告訴訟代理人等はその請求の原因として次の通り述べた。

熱海市農地委員会(以下地区委員会と略す)は政府が昭和二十二年十二月二日付買収令書の交付により買収した別紙目録記載第一、及び第二、の土地につき昭和二十三年五月六日第一、の土地を訴外加藤庄平に第二、の土地を訴外西島虎吉に夫々売渡す旨の計画を樹立したので原告は同委員会に異議申立をなしたところ昭和二十三年六月四日付を以て「異議申立は認めないが同法(自作農創設特別措置法)第二十三条により交換分合の必要があるので昭和二十三年五月六日付の売渡計画は取消す」旨の決定を受けた。そこで原告は同年六月十一日右の異議決定に対し被告静岡県農地委員会(以下県委員会と略す)に訴願を提出した。県委員会は審理を開始せず、昭和二十三年八月二十四日付を以つて訴願書を原告に還付し原告は同年九月二十日頃右訴願書の送達を受けた。併し右の手続には次の様な違法がある。

(一)  地区委員会は昭和二十三年六月四日付を以て原告の異議申立に対して前記の如き決定をなしたが売渡処分の相手方たる加藤庄平、西島虎吉は夫々果実商、井戸掘業の本業を有する者でありその上土地所有者の管理人に無断で本件土地の一部を菜園として使用していたに過ぎず彼等の他の耕作地を合わせても夫々二反歩に達しないので小作農と認め得ない者であり従つて売渡の相手方たり得ない者である。これに反し原告は昭和二十年九月原告の父が当時の土地所有者株式会社電業社原動機製造所の代表者より風致区域内の温泉附宅地用地として開墾並びに宅地造成されていた本件土地を賃借してその後同所に居住して同地を農業牧畜用に利用して居たのであるから原告こそ本件土地の売渡しを受くべき者である。又地区委員会は自ら樹立した売渡計画に拘束され、異議申立のない限り原処分である売渡計画を自ら取消は為し得ないのは勿論申立のあつた場合の審理の対象は申立の範囲内に限定さるべきであるのに同委員会は原告の申立の範囲を逸脱して本件土地は「加藤庄平、西島虎吉両人を相手方と定めたのは交換分合の必要上一旦これを取消す」との決定をなし原告の不利益にまで係争処分を変更し、且つ原告に本件土地を売渡すべき申立に対して何等裁断をなさない。よつて原告は被告両名に対しては右の取消処分の違法の確認を求め、被告地区委員会に対しては更に右取消処分を変更して本件土地を原告に売渡すべき処分をなすことを求め、仮りに原告に売渡すべき処分を為すことを求め得られないとすれば、原告に売渡すべき処分を為す義務のあることの確認を求めるものである。

(二)  次に目録第一、記載地番の土地の面積は合計一反八畝五歩存在するが同委員会の売渡計画には単に五九一番地の内一反を売渡すと定めたに止り該地の何れの一反歩を対象とするか不確定であり、従つて対象不確定の売渡計画であるから無効である。

(三)  仮りに請求の趣旨(二)の(ロ)が理由がないとすれば既に昭和二十三年五月六日本件土地について売渡計画を樹立し、原告の異議申立に対し同年六月四日付異議決定があり原告は法定期間である同年同月十一日右決定に対して訴願をしたので被告県委員会は訴願を受理して審理を開始すべきに拘らず「本件は未だ熱海市農地委員会に於て計画未樹立であるから訴願出来ない」として還付したのは明らかに自作農創設特別措置法(以下自創法と略す)第十九条第二項第七条第四項に違反する違法な行政処分である。よつて原告は被告県委員会に対し本件訴願を審理すべき義務の確認と予備的に還付の処分の取消を求めるのであると述べ右還付処分は訴願却下の裁決と解すべきであると釈明し被告の本案前の抗弁並びに本案に対する主張を否認した。

次に参加人の参加申立の原因事実中本件土地が農地でないとの主張を除いて全部認める。本件土地は昭和二十年九月原告の父訴外一ノ瀬倉吉が参加人より賃借した後父倉吉及び原告が正当の権限に基いて耕作して来た為爾来原告の小作地となつたものであると附陳した。

被告訴訟代理人等は原告の主張に対し本案前の抗弁として、

(一)  原告の請求(一)項は行政処分の違法の確認を求めているが行政処分は本来不変更性があるものであつて単に或る行政処分が違法であると言つてもその違法の程度によつて取消すべき場合もあるし、本来無効の場合もあるから夫々の効果を求めてこそ実益があるが、単に違法の確認を求める請求は実益がなく不適法である。

(二)  次に請求の趣旨(二)項(イ)に於て従前の行政処分を変更して新たな当事者である「原告に売渡す処分をなす」ことを求めているが自創法による農地の売渡しの相手方を変更するが如きは行政庁の新たな行政処分を求めることになるから裁判権がない事項である。

(三)  請求趣旨(一)項は行政処分の「違法の確認」を(二)項(ロ)に於ては行政処分をなす「義務のあることの確認」を同(ハ)に於て行政処分の「無効の確認」を(二)項に於て審理をなす義務のあることの確認を求めているが行政庁が当事者能力を有する場合は行政事件訴訟特例法の規定する「行政庁の違法な処分の取消又は変更を求める訴」に限定されるものであつてその他の「公法上の権利関係に関する訴訟」については民事訴訟の定めるところに従うべきであつて国の機関に過ぎない行政庁には当事者能力はないのである。

(四)  仮りに行政処分自体を争う場合行政庁に当事者能力があるとしても請求の趣旨(一)項は処分庁でない県委員会を訴訟当事者に加え(三)項(イ)(ロ)に於て一連の売渡手続における処分庁たる静岡県知事を当事者に加えないのは固有必要的共同訴訟の当事者を欠如したもので不適法である。

(五)  次に請求の趣旨(一)項が行政処分の取消又は変更を求める趣旨とすれば明らかに変更の文言を以つてする(二)項(イ)と共に出訴期間の制限を受けるのであるが被告県委員会の訴願却下は昭和二十三年八月二十四日発送しているのであるから郵送に要した日時を考慮しても同年八月中には原告は却下の事実を諒知することができたのであるから本件訴訟の提起はその後一月の出訴期間を経過した不適法のものである

と述べ、更に本案につき

原告の主張する本件土地の買収処分売渡計画の樹立異議申立同決定、訴願、訴願書の還付の手続が訴願書の原告受領の日時の点を除いてその主張通りの内容で行われたことは認める。而して訴願書還付の行為が却下裁決であるとの原告の主張は争わない、その余の事実は否認する即ち加藤庄平、西島虎吉は訴外の他の三名と共にこの土地の前所有者たる株式会社電業社原動機製造所の本件土地管理人石井忠久にこの土地の一部の借用方を申込みその承諾を得て昭和十七年及び昭和十九年より夫々耕作していたもので耕作者等は各作毎に作物の一部を納入しているのであり昭和二十年十一月二十三日現在も買収の時期現在も耕作者であつたのであるが仮りに本件土地の借用契約がなかつたとしても本件土地は明らかに耕作されている農地でありその耕作者は前記加藤、西島の両名であるから自作地ではない。従つて権限に基いて耕作することの出来るものが耕作の目的に供していない農地として地区委員会は買収計画を樹て買収を適法になし得るのであつて加藤、西島両名は夫々小作人又は農業に精進する者として売渡しの相手方たり得べき者である。これに反し原告は昭和二十年九月に賃借契約により本件土地を借受けたと主張するが当時は臨時農地等管理令に基いて農地の賃借には知事の許可を要することになつているに拘らず原告はその許可を受けておらないのでその借地契約が無効であるばかりでなく昭和二十年十一月二十三日は勿論極く最近迄本件土地に於て耕作の業務を営んだ事実はない。従つて原告は本件土地の売渡の相手方たり得べき資格はなく地区委員会の売渡計画には何等違法はなかつたのであるが原告の異議申立の審理の際加藤、西島等の耕地が本件二筆の土地に交錯しており売渡計画が適当でなかつたのを発見したので原告主張の如き異議決定をなしたのである。原告は異議申立に於て原告に本件土地を売渡すべき計画樹立を求めているが要求としては売渡計画の取消を求めているものと解すべきであつて地区委員会はその取消の要求は理由がないが他の理由によつて同計画を取消したのである。しかし原告にはこの決定により何の不利益も蒙つていないのである。又原告は行政処分は異議申立その他、他からの攻撃によらなければその自らの確定力により覊束され取消され得ないものと主張するが行政が本来公共の福祉の為の国権作用であつて、より妥当な行政をなす為には取消も適法である。

本件の場合は農地が錯綜していたので売渡計画の裁量基準に鑑み交換分合の必要上取消した行政処分は何の違法もないのである。更に本件売渡計画樹立に当つては本件土地が未分筆の為計画書とは別に対象の土地を図示していたのであつて計画の対象はこれにより確定されている。又原告は被告県委員会が原告の訴願を審理しないと主張して居るが原告には異議決定の理由に不服はあつても決定自体を不服とすべき理由はなく訴願提起の実益がないのみならずその目的物である売渡計画が既に消滅している以上訴願を却下した処分は適法であると述べ。

参加人の参加申出に対して原被告の訴訟は土地の売渡処分を争う訴訟であるから、本件土地の買収処分の効力を争う参加人の参加申立は原訴訟の結果により利害関係を有するものではないから参加申出は不適法である。

仮りに利害関係ありとしても参加人は被告等に対して本件買収処分の無効の確認を求め更に本件土地に対する参加人の所有権の存在の確認を求めているが行政庁である被告等は確認訴訟については当事者能力はない。尚仮りに当事者能力があるとしても参加人の争う買収処分は、都道府県知事の専権に属する行政処分であるから被告等には当事者適格がない。更に買収処分の取消を求める参加人の請求は本件土地買収令書の交付を参加人の知つたのは昭和二十四年一月二十五日であるところ参加人の参加申立の日は同年三月三十一日であるからすでに出訴期間を経過した不適法の訴であると述べ、本件に対して、本件土地がもと参加人の所有地であつたこと昭和二十二年十二月二日付を以て買収し昭和二十四年二月中旬に至り買収令書を参加人に交付して来たこと参加人の異議申立を期間経過の理由を以て却下したことは認めるがその他の主張事実は凡て争うと述べた。

参加人は参加請求原因として、被告地区委員会は参加人の所有に係り原告賃借中の熱海市泉中沢下二二九ノ一山林五反八畝十三歩の内一反、同所二三〇番地山林一反八畝五歩の内一反に対し夫々昭和二十二年九月地区委員会が買収計画を樹立し参加人の異議申立を却下し同年十二月二日付を以つて買収処分をなしたものとして昭和二十四年二月中旬頃に右の買収令書を参加人に送達した。併し右の土地は熱海市風致地区に属する土地で宅地用地である参加人はこの全地区内に昭和十八年一月十八日宅地造成並びに建物新築を同年二月五日右地区の宅地達成の為の林野開墾をいづれも静岡県知事より許可され、地分け、地ならしをなし画然と按配整地して宅地となして置いたが戦時中資材工事人等の関係より建築の着手が遅れていたのである。ところが戦時中の無秩序に乗じ陸軍に供出の松根油採取等のため右の地区に出入した部落民等の一部の者が所有者たる参加人や管理人の許可なく擅に土地使用をしていたものであつて、本件土地は農地ではない。仮りに農地であつたとしても訴外加藤庄平同西島虎吉は下記の通り参加人の許可承諾なくして耕作しているもので小作人ではないから本件土地は小作地ではない。更に加藤、西島両名の小作中の土地として地区委員会の認定した土地は一筆の土地中各所に点々小部分宛散在するものであるから買収土地の範囲が不確定である。と述べ、参加申出が不適法であるとの被告の主張に対し、原被告間の訴訟は売渡計画樹立乃至売渡処分の効力を争う訴訟と言うも実質は土地所有権の帰属関係が積極的訴訟の目的となつており結局行政庁を一方当事者とする私権の変動に関係する訴訟である即ち訴訟において原被告双方係争の目的たる本件土地が被告等の先行行政処分により政府に帰属しおり参加人の所有権の存在しないことを確認して、爾後の自創法上の法律関係につき、該土地の所有権の帰属関係を争つているのであつて、原告被告間に於て係争中の行政処分と不可分的前提有効条件たる被告等の先行行政処分の無効を原因として参加人が右原告被告間の本件訴訟の目的たる土地は自己に帰属すると主張する関係にある以上原被告参加人間の法律関係を一挙に解決する必要があるので当事者参加をなしたのであると附陳した。(証拠省略)

三、理  由

よつて先づ職権を以て原告の訴の適否について考案するにその請求趣旨第二項(イ)に於て原告は「別紙目録第一及び第二の土地に対する昭和二十三年六月四日付同委員会の処分を変更して右土地を原告に売渡す計画を樹立する」行政処分を求めているが憲法にいわゆる三権分立の立前よりして司法裁判所のなすところはあくまで法規の適用による判断表示のみであつて自ら行政権を行使し若くは行政機関に対し之を命ずることはできないものと解すべきである。行政事件訴訟特例法第二条には「行政処分の取消又は変更」とあるけれども、こゝに変更とは新な処分でなく一部取消しをいうものと考うべきである。されば全部を違法として取消し、之に代る新しい行政処分をなしたり或は行政庁に対し新しい処分をなすべきことを命ずるのは司法権の範囲を逸脱するもの、すなわち司法裁判所の審判権に属しない事項を目的とするもので到底許されないところであると断ずるの外ないから被告の出訴期間の点に関する抗弁はその判断を俟つまでもなく原告の右請求は不適法として却下せざるを得ない。

次に原告は請求の趣旨第二項(ロ)に於て熱海市農地委員会(以下地区委員会と略称する)は本件土地を原告に売渡すべき計画を樹立すべき義務のあることの確認並びに第三項(イ)に於て静岡県農地委員会(以下県委員会と略称する)は原告申立の「訴願を審理すべき義務あること」の確認を夫々地区委員会県委員会を被告として求めているが、およそ行政訴訟の目的は行政処分により権利を侵害せられた者が国又は行政庁に対し当該行政処分の効力を争いその無効を確認し又はその効果の取消変更を訴求することにより救済を求めんとするにあるを通常とするものであるから(いわゆる機関争議や民衆訴訟は例外)行政処分の現に存することを要し之を欠くときは権利保護の利益なきものと謂うべく従つて未だ行われない行政処分に対しては訴訟をなすことを得ず又行政庁の不行為に対し行為すべきことを要求すること若くは之と同一視すべき当該行政庁が行政処分をなすべき義務あることの確認を要求することもまた許されないこと明らかであるから右請求も結局不適法として却下せざるを得ない。

次に原告は請求の趣旨第一項に於て被告地区委員会のなした昭和二十三年六月四日本件土地についてなした取消処分の違法の確認を求め、被告は本件請求が取消処分の取消を求むる趣旨とすれば出訴期間を徒過した違法の訴であると抗弁するからその当否を審究するに本訴請求が抗告訴訟ではなく確認訴訟であることはその趣旨自体より明白でありかゝる公法上の権利関係に関する争訟については別段出訴期間についての制限ないことは論議の余地ないところであるから被告の右出訴期間の抗弁は理由がない。よつて進んで確認の利益の有無につき考察すれば、たとへ行政処分そのものゝ違法適法の判断を求めて当該行政庁を被告として訴訟を提起することが許されるとしても行政処分には適法性の推定が行われその処分が取消権を有するものにより取消されるか又は、有権的判断者より無効と断ぜられるまでは一応有効として存続するものであるから単に処分の違法の確認を求めたところで原告被告間の法律関係は何等安定せず従つて結局右請求は確認の利益なきことに帰するから失当として棄却を免れない。

次に原告は請求趣旨第二項(ハ)に於て被告地区委員会に対し目録第一の土地に対する売渡計画の無効確認を求めているのでこの点について考察するに被告地区委員会が昭和二十二年十二月二日付買収令書の交付によつて政府が買収した別紙目録第一及び第二の土地に付て昭和二十三年五月六日第一の土地を訴外加藤庄平に売渡す旨の計画を樹立したこと、原告が右計画樹立に対して同委員会に異議を申立てた結果昭和二十三年六月四日付を以つて「異議申立は認めないが自作農創設特別措置法第二十三条により交換分合の必要がある」旨の理由で前記売渡計画を取消したこと、原告は更に同年六月十一日右異議決定に対し被告県委員会に訴願を提出したが同被告は同年八月二十四日付を以つて訴願書を原告に還付したことは原被告間に争のないところである。被告県委員会は昭和二十三年五月六日付本件土地に付いて樹立した売渡計画は既に同年六月四日地区委員会によつて取消され従つて無効確認の請求については訴訟の目的物がなく、請求棄却は免れないものであると主張するので、先づ右売渡計画が有効に取消されたるか否かにつき審按するに行政処分はもとより法律に基いて行われなければならないことは謂うまでもないが変転する各種の情勢に応じて迅速に合目的的に行われなければならないものであるから、行政庁は自己のなした行政処分に誤りのある場合自らこれを発見したると将又第三者より指摘せられて覚知したるとを問わず利害関係人の既得権を害さない限り迅速にその処分の変更訂正を為しうるものと解するを相当とする。かの異議申立を原処分庁に対して提起しうることは原処分庁に対し原処分の合法性合目的性についての反省の機を与える趣旨のものに外ならないと解し得るのである。この点に於て行政処分に対する救済手段として特に法令によつて審査権を与えられた裁決庁が訴願を審理した場合後日裁決庁自ら裁決を取消しうるや否やの問題と異るものがある。本件に於て地区委員会は自己の樹立した売渡計画が合目的性を欠き事前に交換分合を必要とするものと自ら認め訴外者に対する原売渡計画を取消したものであり之を取消すも自己に売渡を求める原告の権利を何等害しないことは前示争いない事実より明瞭である。而して被告地区農地委員会は交換分合の必要ありとしてさきの売渡計画を取消したことは明かであるが、この場合交換分合うんぬんは単に取消の理由たるに止まり何等異議の目的たらざる事項につき決定をなしたものでないことは容疑の余地ないところである。然りとすれば右売渡計画の取消は有効になされたものと認めざるを得ないからすでに本訴提起前に取消された売渡計画の無効の確認を求める本訴請求は畢竟訴訟の目的物を欠く不適法な請求と認め却下せざるを得ない。尚原告は予備的に請求の趣旨第三項の(ロ)に於て被告県委員会のなした「原告の訴願不受理の処分を取消す」旨の判決を求め右訴願不受理処分は訴願却下の裁決であると主張するので右処分の当否について考えるに被告地区委員会が本件土地を訴外加藤庄平、西島虎吉に対し売渡す旨の売渡計画を樹立したこと、これを違法と主張する原告の異議申立に対し昭和二十三年六月四日「異議申立は認めざるも同法(自作農創設特別措置法)第二十三条による交換分合の要あるので昭和二十五年五月六日委員会に於て決定せる売渡計画は取消しをする」旨の決定をなしたこと、原告が右決定を不服として同年六月十一日被告県委員会に訴願を提起したことは原被告間に争のないところである。ところで本件売渡計画は前述の通り昭和二十三年六月四日の地区委員会の決定によつて取消されたものであるから原告の訴願が原処分である売渡計画の取消を求める趣旨とすれば既に該処分は取消されていて、その目的物がなく、又原処分を取消した右異議決定の取消を求める趣旨とすれば、売渡計画の復活を求めることに帰着し、原告には法律上何等の実益なき訴願となるわけでいづれにせよ原告の本件訴願は争の目的たる行政処分がすでに存せず従つて原告に於て何等権利利益の侵害されたるものなきに拘らず提起されたもので畢竟訴願の要件を欠くものであるから右訴願却下の処分は毫も違法にあらざるものと言うべく従つて之が取消を求める原告の右請求は理由ないものとして棄却を免れない。之を要するに原告の本件請求第一項は確認の利益なく又第三項の(ロ)も理由がないから共に失当として之を棄却すべく、その他の請求はいづれも不適法として却下すべきものである。

次に参加人の本件参加申出の適否について考察するに民訴第七十一条の参加は原被告間の訴訟の結果により参加人の権利が害される虞ある場合か又は訟訴の目的の全部又は一部が参加人に帰属することを主張する場合でなければならない。しかるに原被告間の本件訴訟は行政庁たる被告等を相手方としてさきに被告地区委員会がなした農地売渡計画の違法若くは無効なることを前提としてその無効確認及び右売渡計画に対しなしたる原告の異議申立を棄却し且右売渡計画を取消した処分の違法確認、右売渡計画に関し原告の為したる訴願の不受理処分の取消若くは訴願を審理すべき義務あることの確認並びに新に原告に対し売渡計画を樹立すべきこと若くは樹立すべき義務あることの確認を訴求するものであるところ、本件参加人の訴旨は右売渡計画より以前になされた買収計画及び買収処分の違法なことを前提としてその無効確認若くは取消及び農地所有権の参加人に属することの確認を求むるものであるから両者を彼此対照するときは右本訴訟の結果により毫も本件参加人の権利が侵害される虞れなきことも極めて明らかなるのみならず本来右訴訟の目的は行政庁たる被告等の為したる若くは為すべき行政処分をその対象とする公法上の権利若くは権利関係自体であつて特定物の直接の目的とするものでないから本件参加人に於て本訴訟の目的が自己に属することを主張し得べき場合にも該当せざることも、これまた極めて明らかであると言うべく従つて参加人の本件参加申立は畢竟その訴訟要件を欠き之を補正することができないから不適法として却下せざるを得ない。

よつて訴訟費用の負担について民事訴訟法第八十九条に則り主文の通り判決する。

(裁判官 戸塚啓造 岡田辰雄 小河八十次)

(目録省略)

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